竹橋・パレスサイドビルの印象(2008.11.11)

 旧帝国国会図書館や法務省本館、三信ビル、国鉄の煉瓦組高架軌道など明治・大正の逸物を見て歩いていますが、では近代・現代に優れたものはないのかというと、もちろんこれまた山ほどあります。そんな中からきょうは皇居の真ん前・竹橋の「パレスサイドビル」へ行ってみましょう。
 一見すると総ガラス張りでわりと新しい建物に見えちゃうのですが、実はコレ、もう築後40年以上経って居るんです。これが建つ前はモダニズム建築の傑作といわれていたアメリカの雑誌「リーダーズダイジェスト」のステキな2階建て社屋が広々としたお庭の中に建っていました。リーダーズダイジェストっていう雑誌、覚えていらっしゃいますか?
 このパレスサイドビルは日本初の全面ガラス張り高層建築ということもあるのですが、もう一つ、日本で初めての複合共同建築物でもあったそうで、竣工時は先のリーダーズダイジェスト社・毎日新聞本社それに東洋不動産の3社が共同して使っていたものです。

 建て替えに際して、リーダーズ社は「とにかくユニークなデザインのものを・・・」といい、毎日新聞社は「地下に超大型輪転機が24時間稼働するので頑丈なものを・・・」といい、そして東洋不動産社は「出来るだけコストを落としてくれっ!」って・・・・。
 こんな3社がすべて相反する勝手な要求を突きつけられた設計者はどれほど悩んだことだったか。しかし、若き有能な設計者は見事にこの相反する難問をやっつけちゃうんですね。

 このビルの両側にはこの白い巨大な円筒が2本立っていて、これがパレスサイドビルの印象を強めている一番の要素なんですが、コレ、じつは巨大なエレベータホールそのものなんです。ふつう、エレベーターって建物の中に設置するんですが、ここでは地下に巨大な印刷工場があるのでエレベーターボックスが入らず、悩んだ末のグッドアイデア、思い切ってエレベータボックス全体をそっくり建物の外に出しちゃった!

 この巨大な筒の中に入るとこんな感じ・・・。私の写真では伝わらないのが悔しいのですが、実物はものすごくSFチックで未来的!これが、40年以上昔の意匠とはとても思えないほどの空間なんです。

 このビルの南側の面です。床の足下から天井の縁まで窓を作らずに全面素通しのガラスで貼ってしまうというのは、1966年当時としては画期的な出来事で、工法・材料共に数え切れないほどの難関を越えたであろことは容易に想像が出来ます。

 しかし、そこから生ずる採光量も劇的で、とっても明るい室内空間が誕生することになります。当時はいまのように真空ガラスとか復層ガラスとかUVカットとかはまだありませんでしたから、本当にただの素通しガラス。夏になるとジリジリ焼け付く日差しもストレート!

 そこで、設計者が考えたのが建築足場その物のような「ルーバー」。これだとガラスの透明感を損なわずに直射日光の強さを和らげてくれそうです。

 外観上から分かるさらに面白い工夫がもう一つあります。ふつう、ビルなどの屋上を持つ建物では、降雨の際の雨水を縁まで導いて壁面内に導管を埋め、そこから排水しているんですが、このパレスサイドでは雨水の導管をわざと外に出して、それも階層ごとにわざわざ切断してあります。落ちてくる雨水は階ごとにある大きな漏斗で受け取って、また下の階の漏斗へと・・・・。

 小雨の時はチョロチョロと、大雨が降っていれば滝のごとく雨水の落下過程が窓越しに見える・・・あぁ〜、なんてステキなアイデアなんでしょ!
これなら雨の日でも憂鬱にならないかもね。古いビルなどでは壁面内に通した雨樋が詰まったり割れたりと大きなトラブルの原因になるらしいのですが、ここではわざと部材やボルトを表に出すことでメンテのし易さと、部品交換の簡易さを両立させ、なおかつそれをデザイン上の特徴にしてもうという一石何鳥ものアイデア!このことで「100年以上使えるビル」を実際に実現しています。


 さて、内堀通りぞいに沿って、上の写真を撮りながら正面玄関へとやって来ます。けっこう長いですよこのビルは、角から数えて150m位はありますかね。10段ほど階段をトントントンと上がるとオートドアがタイミング良く開いて「よ〜こそいらっしゃいませ」と言われているような感じ・・・・。現在はバリアフリーが標準化されていて、階段でアプローチする建物なんて望むべくもありませんが、建物に入って行く際の緊張を呼び起こす心理的効果はこの10段ほどの階段には確実に潜んでいますよね。
 そして、入り口を入るとまず正面にこのブロンズ像が・・・! 昭和14年に世界一周親善飛行に成功した「ニッポン」の記念碑(?)です。この快挙の2年前に朝日新聞社が「神風」という飛行機でヨーロッパまで飛んで、日本中が沸き返ったそうで、それに刺激されたライバルの東京日日新聞(現在の毎日新聞)も、さらにでっかいことやろう燃えたんでしょうね。どこぞの会社みたいに創業者の胸像など置いていないところが、いかにも新聞社らしくて大いに気に入ってハナから好印象!

 で、すぐ横っちょにあるあのSFチックなエレベータホールへ向かってまずは上から・・・・屋上階へ行きますよ。
 なにしろ8台ものエレベータが上下していますので、相当に忙しい新聞社でもすぐに乗れる箱が来てくれます。「R」のボタンを押してしばし待ちましょ。ところで、屋上階のことを何でエレベータの押しボタンには「R」と表示してあるんだろうか、世界中何処へ行っても「R」が常識なのかしら?!?・・・てなことを考えながらのっているとじきに屋上に到着です。
 あっ、空だ、空だ。もう360度、空!きんもちいいいぃぃ〜〜。僕らは地上を這い回っていると「空」の存在なんて忘れちゃってますからね、やっぱりいいよねぇ空は・・・・。
 そして、ここ屋上にも世界一周を成し遂げた「ニッポン」の成功を期に空の安全を祈願するために創建された「毎日神社」というヤシロが片隅に奉られていました。毎日新聞社って、そうとう航空に思い入れが強い新聞社なんですね。

 空ばかりじゃなくて下を覗き見ても格別の景色が広がってますよ。なにしろ真ん前は、江戸城・皇居がどっわぁ〜っと広がっていますからね。

 でもって、こんどは北側の方。南側の方はある意味「虚」の世界だとしたらコッチは「実」の世界。1つの建物が結界となって虚実相反する世界を眺められる唯一の場所がここなのかもしれませんよ。

 あぁ〜、それにしても郊外の公園に来たようなこの長閑さはなんなんでしょう・・・・
 現在、ここには約100社のテナントに6000人が働き、1日25000人の人が出入りしているそうです。エレベータからドッと吐き出され急ぎ足でビルを後にする人たちはこのビルの歴史やデザインのことなどまるで眼中には無いように見えます。それはこの建物が生き生きと生きている証拠のようでもあり、また1つの町を形成しているアカシでもあるのでしょうね。機会がありましたら、みなさまもぜひ一度立ち寄ってみて下さいませ。


 今回の写真はすべて京セラ一眼「230AF」という写真機で撮ってます。まったく不人気で不憫な写真機ですが、付属で着いている標準ズームはヤシカの匂いが濃厚な感じがして、かなりのお気に入りになっています。おでこのフラッシュユニットも取って付けたようでイカしてますでしょ、実際にこのユニットは取り外しが可能です。

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