INKA

ダブ・ダブ・ダブレット

 ネットオークションをパラパラ見ていたら変な二眼レフに目が止まりました。
 うぅ〜む、かなり変です、いや実に変です。
 カメラのおでこには「INKA」と記してあります。INKA???インカと読むのでしょうか、メキシコのカメラかなぁ?まさかね・・・。
 こんなカメラは今まで見たことも聞いたこともありません。
 何処かの遺跡じゃあるまいし変な名前ですね。更に気になるのは写真なので大きさまでは解りませんが、ブリラント(フォクトレンダー)によ〜く似ているんですよ。ブリラントは単にシャープなだけではなく、実に深みのある階調を持っているので大変気に入っているカメラです。
 うぅ〜〜ん、これは引っかかりますねぇ、齢50をとうに過ぎているのに好奇心だけだけは今だ衰えず、このような正体不明のヤツは気になってしょうがない。まぁ縁があれば落ちるだろうとビットしてみることにました。

 さてさて、どうも広い世間でこの変てこなカメラが気になったモノ好きな御仁はあまりいなかったようで、それほど競わずにあっさり手にすることが出来ました。
 カメラが届いて実物を見てみるとやはり前述のカメラと瓜二つです。ボディの材質もベークライトで寸法に関しては全く同一、これは間違いなくブリラントのコピーということが分かりました。あるいはこちらが本家本元でブリラントがコピー?・?・? まさかねぇ・・・。
 撮影レンズ下側に小さく「MADE IN CZECHOSLOVAKIA」という文字がレリーフされています。
「チェコのカメラだったんだぁ。」そして、レンズ周りと背面に「ATAK」と記されています。これがメーカー名なんでしょうか、アタック???どこまでも変な名前のカメラですね。
 手持ちの資料やweb中にもこのカメラに関する情報は皆無、全く素性が解りません。さぁ、どんなもんなんでしよう・・・?

 このカメラは何十年と放置されていたんでしょう、ファインダーを開くとどんより暗く、何を見ているんだかハッキリしません。
 レンズもカビだらけで真っ白なので、とりあえずお掃除がてらバラして中身を見てみることにしました。
 シャッターはバルブのほか25と75の2段、しかしサビが廻っていてギクシャクしています。ご本家はこの他にT(タイム)が使えます。仕組みはギロチン式のエバーセットでバネさえ折れたり外れたりしない限り故障することがないシンプルな形式なのですが、精度となるとそれほど信頼できるものではありません。
 キレイに洗浄したあと、ボロン粉を少々まぶすとすっかり快調になりました。
 絞りは大穴(f.8くらいかな?)と小穴(f.16くらいかな?)のプレートが切り替わる2段式、これまたオリジナルでは、6.3から16の間を無段階で調整できます。トホホ・・・あまりのチープさについ悲しくなってきました。
 機関部に関しては全くプリミティブ!ブリラントの「ブ」の字ほども似ていません。

 レンズも同様、ブリラントは正統なトリプレットですが、こちらは貼り合わせのメニスカスが対なった2枚構成(イラストを参照してください)、焦点固定でピント合わせなんか出来ないんです。
 御本家はファインダーでピントの確認は出来ないものの、一応目測で最短1.5mから∞まで焦点調節は出来るのです。ますますブリラントが遠のいていきます。嗚呼何というアホな買い物をしてしまったんだ。まったく紛らわしい奴めっ!


「INKA」のレンズ構成です。

 しかし、はたと考えてみると単玉のカメラは何台か使ったことがありますが、2枚レンズのカメラは今までに経験がありません。
 むむっ、これは珍しいなぁ、ダブレットかぁ・・・ちょっと興味が湧いてきましたよぉ〜。物事良い方に考える質なので、簡単に立ち直ってしまいます。
 このレンズ構成は1800何年だか忘れましたが、ドイツの天文学者ガウスが薄いメニスカスを2枚貼り合わせにした対物レンズで望遠鏡を作ったのが初めで、その後イギリス人のクラークとかいう人が絞り羽を挟んで前後対称にこれを置いたカメラ用レンズを開発したらしいです。
 これがいわゆる有名なガウスタイプの始まり、このカメラはまさにこのスタイル、ざっと100年以上の昔のことでかなり古い設計なんです。
 しかし、この後ガウスタイプはテッサータイプなどと共に発展し、プラナー・ズマール・ズミクロン・クセノタール・ノクトン等の名大口径レンズは皆このガウスタイプの発展形なんですね、したがって由緒だけはありそうです。そう、あくまでも由緒だけですが・・・。
 まぁ、所詮はダブレット、大きな期待ができないのは百も承知、万一面白い写りをしてくれたら大儲けとばかり早々にカメラを組立直し、フィルムを詰めて外に飛び出しました。


 結果は案の定というかやっぱりというか、ボロボロでした。
 まず、シャッター速度が25と75という表示になっているので、てっきり1/25秒・1/75秒と思ってしまったのですが、これが大間違い!
 確かに緩急の2段にはなっているのですが表示よりずっと早いようです。どうもシャッター整備のときに使用した、新兵器のボロン粉が効きすぎたみたいです(笑)。
 天気もまあまあだし絞りを小穴にして1/75で撮ってみたのですが、とてつもなくアンダーで真っ暗になってしまいました。その上、遮光が悪くあちこち光線漏れもあります。
 それではと今度は絞りを大穴にして再度リベンジ、これでもまだアンダーです。オマケにガイドローラーのサビがフィルムを傷つけ雨が降っているような状態になります。
 と、まぁこんな状況で、あーでもない、こーでもないと試行錯誤の末、何とか絵が出るようになったのが下の作例です。あ〜ぁ、ホント疲れた。

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作例は、イルフォードHP5(ISO 400)フィルム、FUJIミクロファインで標準現像。


 JFC会友のカメラッコ様より貴重なご意見を頂けました。以下がその内容です。カメラッコ様、ありがとうございました。

 このタイプのレンズは、ラピッド・レクチリニアー型と書いておかれるほうが無難だと思います。
 ダブルガウスは、通常は4群4枚の絞りを挟んでの対称配置レンズをさすことが多いです。 写りは、光を合わせれば、このタイプのレンズは、魅力の総合商社です。
 ラピッド・レクチリニアーは、1860年の時を同じくして、 英国のドールメイヤと独逸のシュタンハイルの両社で、別々に発表されたレンズです。蓋をあけると同じ形式だったのですね。 当時としては、驚きのf8と大口径レンズだったので、ラピッドの名がついています。

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