CHINON 35F

野性の味・チノネックス

 私達に一番身近なこの日本の国土は、20世紀の100年間でそれまでに経験したことがないような激変を生じさせました。特に敗戦以降の50年間は戦争で負った傷を覆い隠したかったのでしょうか、開発という美名の下、全国民が結束して傷の快癒に力を注ぎましたね。
 それも歴史の1ページと是認してしまえばそれまでなのですが、国土を元々覆っていた緑豊かな広葉樹林の山々は人々の都合のもと、多くが針葉樹に植え替えられ真の意味での自然を壊してしまいました。
 それでもまだ管理の手が入り続けていればよかったのですが、経済効率を最優先したために輸入木材がドォ〜ッと押し寄せ、林業不況に輪を架けたために放置され山は荒廃し始めました。このことは皆さんもご存じの通り、単に山だけの問題ではなく麓で営まれる農業や果ては海の中にまで影響を及ぼすこととなります。
 また海岸線も同様に人の都合のいいように足されたり引かれたりして歪められ酷い有様に変わり果てました。日本中を海に沿って歩いてみると解りますが、山がギリギリに迫った崖地でもない限りは殆どの沿岸は人の手が入っていますね。特に埋め立てに都合がよかった干潟はほとんどが駆逐されてしまい、今となっては取り返しの付かない状態です。
 干潟が消えて困るのは渡り鳥だけだよと当時の官吏(いや、現在の役人も)は思っていたのでしょうか。
 実は潰した張本人の人間が一番痛手を受けるんですね。人が水を使い、使った水を汚す、生きていくためにはココまではしょうがない。それを川に流せば海へ出て大量の海水で汚れを薄めてくれ、いずれは雲散霧消するとでも思ったのでしょうか。
 百歩譲って薄まるとしても無くなるわけではない。実は大海に出るずぅーっと手前の干潟で暮らす微細な生き物たちによって浄化されていたんですね。
 もっと早くこのことに気が付いていればナァ〜・・・。しかしもう手遅れ、40億年を費やして形作られた大自然の巧妙な仕掛けは100年掛けたとしても、そう簡単には元には戻りません。

 カメラの世界でもこの100年で盛んに隆盛衰退が繰り返され、消えてしまったメーカーが幾つもありますね。
 これとて自然な流れで技術・販売・資金に恵まれたものが残っていく。退場してしまった中には未だに惜しまれているメーカーもありますが、その内の何かが欠けていたのでしょう。
 その中にあって「チノン」というメーカーは実に中途半端で現在でも盛んにカメラ(デジタル)の開発製造を行っている(コダックの資本参加に入り製品は全てOEMに)のですが、ブランド名の付いた商品は消滅してしまっているのです。そのチノンカメラは今日に至っても絶大なファンがいるようで「チノネスト」なる形容詞(?)さえ耳に届いてきますね。

 私はこれまでチノンカメラとは全く縁が持てず、巷の噂がどうも耳障りで気になって仕方がなかったのですが、とうとう1台のチノンカメラが巡ってきました。
 「CHINON 35F」・・・何十というカメラを送り出したであろうチノンですが、寄りによって固定焦点、固定速度の最もプリミティブなプラスチック製カメラが手元に・・・。
 その噂によるとチノンのレンズ描写は独特の世界を持っているようで、もしそれがホントのことだとすれば、このカメラのようにあまり複雑な仕掛けがないほうがレンズの素性を判断しやすいかも知れません。

 では、このカメラをお持ちでない方のためにプロフィールを少し補足しましょう。
 レンズはチノネックス35mm/f3.8のトリプレット(もう少し上等?な35mm/f2.8をもつ機種は3群4枚のテッサータイプになります)、少し暗いですがパンフォーカスを狙った焦点設定ですから使用に際して不便は全く感じません。
 フィルムは手動の巻き上げ・巻き戻しですが、簡単な仕掛けのフィルム強制送り出し装置が付いていてフィルムを入れて裏蓋を閉めると装填は完了しちゃいます。この仕組みは当時、セールスポイントの一つだったようで、正面右側に蛍光オレンジの目立つ色で「EASY LOADING」とシルク印刷されています。
 鏡胴にはフィルム感度別(と言ってもISO100と400のみ)にお天気マークのピクトが表示されていて、それぞれ絞りを調整できるようになっています。ISO400で晴マークのときが最小絞りでf16くらい、曇マーク(ISO100時の晴マークと同位置)でf8くらい、そしてフラッシュマークにすると絞り開放f3.8になります。
 とういことで絞りは3段階を選べるわけです。光量が低下する室内などではフラッシュマークにして、敢えて電池を抜いてしまうと発光せずアベイラブルで写真を撮ることができますので、ぜひお試し下さい。

 さて、初めて使うチノンです。どんな結果をもたらしてくれたでしょう・・・
 早速モノクロを詰めて代々木辺りから渋谷を一回り。この辺は被写体に苦労しませんね、グルッと見渡せば被写体だらけです。
 ・・・おぉ〜今日はいいスナップが撮れたぞと、いつもの調子で現像してみると何と何とネガが真っ黒!ルーペをあてると微かに何かが写ってはいるのですが、超ドオーバー・・・。
 シャッターを調べてみると何と強烈な粘りが・・・あららっ、ガッカリ。逃した魚は大きいとよく言いますが、こういうときに限って面白い写真が撮れた手応えみたいものがあるんですよねぇ〜。
 賢明な皆さんはあまりないことでしょうが、私、良くやるんです、ろくに点検もせずにジャンクをそのまま持ち出すこと。
 少しめげましたが、チノネックスに対する興味は一向に衰えず、修繕を施して再挑戦。今度はうまく感光してくれました。
 ほうほう、これは見事なコントラストに尖りに尖る尖鋭度!これは確かに惹き付けられますねぇ、オリンパスのズイコーに近い印象がありますが、ズイコーのような洗練された味はなく、むしろ野性的な荒々しい絵が作れるようです。アンダー部の解像に拘る方には不向きで殆ど蹴飛ばしていっちゃいます。
 これは面白い!
 しばらくはチノンのカメラを捜して彷徨する日々が始まる予感・・・・チノネストかぁ〜、それもまた良しですね。


CHINON 35Fでの作例です

以下の写真は、モノクロはKONIPAN 400をエヌエヌシー社のND-76で標準現像処理。
カラーはKONICA Centuria 400を純正現像。
ニコンCOOLSCAN IVでネガフィルムを直接スキャニングした画像です。

1. 順番待ち

2. 芭蕉の庵

4. 静かな午後

5. 油にたかる・・・

6. 03号-発進!

7. 戦時に備えて

8. 大久保辺り.1(フラッシュマークにして電池を抜いて開放で)

9. 大久保辺り.2(フラッシュマークにして電池を抜いて開放で)

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