Canonet

18,800円の衝撃

 世の中、ついにデジカメ時代になっちゃいましたネェ〜。
 つい、数年前に銀塩・デジタル論争が吹き荒れたことが嘘のように思える昨今です。
 今時、銀塩カメラなどぶら下げて、街を闊歩するなど、時代遅れのジジイもいいところ。増してそれがちょっと古めのセミクラシックだったりすると、行き交う人々の視線が白いこと、白いこと。
「おい、おい、見て見ろよ、前から歩いてくるあのオジサン。よく、あんな時代遅れのみっともねぇカメラ、持ち歩けるよな」と・・・。
 しかし、そんな冷たい視線も、なんのその。きょうもオジサンはキャノネット片手に街へ繰り出すのであります。

 今日のお散歩コースは神宮外苑。
 銀杏並木を初め、小規模ではありますが雑木林や芝生広場などがあり、ちょっとした都会のオアシスであります。
 そんな小径をブラブラしていると、前から子犬を連れた若いカップルに出会いました。二十歳前後でしょうか、彼は裕に190センチ近い長身、彼女は逆に150センチほどの小柄で可愛い娘。
「こんにちは、可愛いワンちゃんですネェ〜、女の子ですか?」
「オスなんです、まだ6ヶ月ですけど」
「6ヶ月!どうりで可愛いわけだ。お名前は?」
 などと、挨拶代わりのような会話をしていました。
 やがて、二人は私のカメラに目を留め、
「そのカメラ、古そうですけど、写せるんですか?」と、彼。
「もちろん!今日はこれでブラブラ写真を撮って歩いているんです」と私。
「それ、すごくカッコイイ・・・」と、今度は彼女。
 私は、場違いな時代遅れという意識も多少あったので、「カッコイイ」という言葉がストレートには理解出来ず、「どうもありがとう」と言うのが精一杯でした。
 そうかぁ〜、いまの若い人達は、こんな古いカメラを実用品とは捉えずに、ファッションアイテムとして見ているんだなぁ。

 多くの古い国産カメラ達をご紹介していて、これだけは避けて通れない、それが抜けちゃ意味がない、と言われるほどに大切なカメラがあります。いわゆる時代を変えた、または、ここから変わったというようなエポックメーキングな存在のカメラ達です。
 戦前では六桜社の「パーレット」や「ミノルタフレックス」、さらには「マミヤシックス」、戦後の揺籃期では「リコーフレックス」、そしてカメラを国民のものとした「オリンパス・ペン」、クイックリターンミラーの実用化で一眼レフを完成形に導いた「アサヒフレックス」、さらに露出のオート化の流れを築いた「キャノネット」など、写真機の進歩の曲がり角に存在した多くのカメラ達がいます。

 今回はその中から、「初代キャノネット」に焦点を当ててみることにしましょう。
 戦前、「精機光学」を起こした吉田五郎さんは、日本においてライカを凌ぐカメラを作ろうと、壮大な挑戦を企て、「カンノンカメラ」を作ったのは有名な話でありますが、その伝統は戦後も引き継がれ、キヤノン7やキヤノンVT、Pという傑作カメラの誕生に繋がったわけです。
 したがって、キヤノンの視線の先には常にライカが見えていたわけで、素人を相手にするようなカメラは指向していなかったのですね。
 いわゆる、高級機指向でブランド力を付けてきたわけです。
 しかし、キヤノンは1961年、社内の声(従業員達が自分たちの給料でも買えるカメラを作りたい、と)を汲み上げ、トンでもない大衆用カメラを開発したんです。それがこの「キャノネット」というカメラ。
 何がトンでもないかというと、4群5枚でf1.9という贅沢な大口径レンズを使いながらも、18,800円という超低価格で出したことです。それも当時、最先端技術として注目されていた、速度優先の自動露出まで組み入れちゃった。
 私はリアルタイムでの経験はありませんでしたが、この噂が業界に走るや大変な騒動になったそうです。
 結局、このカメラはキヤノンという会社の規模や体質までを変えてしまうほどの大成功になり、以来、キヤノンは大衆機の分野でも、トップメーカーとなってしまうのです。

 キヤノンの戦略の巧さは、ブランド力を維持するためにフラッグシップには、とことんお金を掛け、最高の商品を持ち続けながら、そのイメージを下位の商品に結びつけていく狡猾さがありますね。
 いま、話題の「Kissデジタル」もEOS 1Dの高性能イメージをそっくり頂いて、一人勝ち状態が続いています。このカメラ、価格設定でも業界をあっと言わせましたね。
 この辺の戦略は、キャノネットが世に出た事情とよ〜く似ているような気がするのですが・・・。

 さて、このキャノネットのレンズですが、大口径ですヨォ〜、f1.9、かなり頑張ってます。
 それまでキヤノンのレンズには、S(ライカマウント)の時代、R、FL(初期一眼レフ)の時代を通して標準系は4群6枚を頑として護り続けてきたのですが、このキャノネットで初めて4群5枚に挑戦します。
 1枚削ったのはコストとの兼ね合いだと思いますが、これが結構いけているんです。しっとりとした階調は伝統のままに、周辺まで綺麗に解像します。
 これが18,800円(同時代のフジカ35EEやコニカSIIは25,000円前後でした)で、連動露出計を装備してサクサク撮れちゃうんですから、ライバル達が大騒ぎするのも無理なからぬことだったのでしょう。

2004.4.27

キャノネットでの作例です

以下の写真は、カラーはアグファCT precisaを純正現像。
モノクロはKONIPAN 100をエヌエヌシー社のND-76で標準現像処理。
Nikon Coolscan IVでポジ及びネガフィルムを直接スキャニングした画像です。

1. 光溢れて

2. 時を越えて

3. boys

4. 光溢れて

5. 時を越えて.2

6. 匠のコテも

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