Beirette

人民管理工場製
 これは旧東ドイツのVEBバイエル社が作った「バイレッテ」(正式にはBoots Beirette B.L.という長〜い名前です)というカメラです。
 本機は自由主義圏へ向けての輸出用として再化粧されたもので、本国及び近隣共産諸国には「beirette vsn」というネーミングで作られていました。このvsnの方はトップカバーも無塗装で正面 右側に記してある「Made in D.D.R.」の文字も勿論ありません。
 このバイレッテは1970年頃に作られた2代目で1966年に登場した初代のバイレッテは金属ボディの小型でがっしりしたドイツカメラの風貌を備えていました。

 VEBバイエル社は、戦前から活動している歴史のあるメーカーですが、高級機は狙わずもっぱら大衆向けの簡易なカメラを専門としていたようです。というかドイツでは物作りにおいて一種の階級のような下敷きがあるのでしょうか、「うちは高級機専門です」となると大衆機には手を出しませんし、逆に「うちは大衆機専門です」となれば背伸びをせずにコツコツと簡易なもの専門でやっていますね。
 昔は自動車などでも、メルセデスは高級専門、オペルやワーゲンは大衆用と・・・、なにか棲み分けがハッキリしていたように思います。現在はメルセデスもオペルも米資本が入ってこのような垣根が取り払われてしまいましたが。
 このことはドイツの物作りの土台にあるマイスター制度とも関係があるような気がしますが、深い知識を持っているわけではないのであくまで推測です。
 振り返って日本を見てみると、こちらのオプティカルマニュファクチャーは一時期すんごかったですね。上は自社ブランドのシステムレンズを備えた高級一眼レフから下はEE機構の固定焦点コンパクトカメラまで各社こぞってぜ〜んぶ取り揃えてありました。
 自動車だって同様で、トヨタは大衆車パブリカからVIP専用のセンチュリーまで、日産もサニーからプレジデントまでという具合です。この開発力というか、バイタリティというか、無節操というか・・・、世界地図を俯瞰すれば日本なんて極東の小国なんですよね。諸外国から見たら昭和の日本は猪突猛進のモンスターに見えたことでしょう。

 さてこのバイレッテを作ったVEBバイエル社ですが、東独のカメラメーカーにはおしなべて社名の頭に「VEB」って付きますね。VEB PENTACONとかVEB Zeiss Ikonというようにです。VEBって何でしょう、「株式会社」みたいな意味なのかなぁ、共産国家なのでそんな訳はないですね、ちょっと気になります。
 そこで調べてみました、その結果「Volks Eigene Betrieb」のイニシャルということが判りました。読み方はよく分かりませんが直訳では「人民管理工場」となるようです。いわゆる国営というのとはちょっと違うようです。しかし人民管理だなんて何だか怖そうな響きですねぇ、仕事中にちょっとでもミスなんかすると棒で叩かれたりしたんでしょうか。

 ではこのカメラを仔細に見てみましょう。
 まずは初っぱなから手にしたとたんにガッカリします。確かに小型ではあるのですが、恐ろしく軽くて230グラムしかありません。ほぼ同じ大きさのコニカC35(1968年)が400グラムですからその軽さが想像できると思います。
 コンパクトカメラである以上、小さくて軽いことは美点には違いないのですが200グラム強というのは不安を催す軽さです、「コイツ、中身入っとらんちゃうの・・・」という不安ですね。以前「ペンタックスPC35AF-M」の記事にも書きましたが「小さいのに重い」というのは中身がしっかり詰まっているようで安心しますね。(単純なんです、私)
 早速、中身を覗いて見てみましょう・・・うぅーん、なるほどね正に不安的中です、中身は殆どありません。
 先ず電気関係の物は一切付いていません、シンクロ接点のみ、電池も電池ボックスもない完璧なマニュアルカメラです。
 ファインダーも距離計のないシンプルなアルバダ式、いわゆる複雑な機構を必要とするものは一切無しです。
 さらにボディ全体は、やたらとヒケの目立つ品質の悪い総プラ製、シャッターも3速(B, 1/30, 1/60, 1/125)は使えますが簡素な2枚羽のエバーセット、巻き上げでコッキングしているのかなと思いきや、何処ともリンクしていませんでした。
 二重露光防止装置が入っているので使い心地はセルフコッキングのようですが・・・。絞り羽も何と2枚で済ませています、あのどこまでも四角形のまま大きさが変化するオリンパス・ペンの絞りと同じヤツ。

 絞りは鏡胴上部にお天気マークが大きく表示されていますが、右サイドに2.8から22までの数値が細かく刻んであるので安心できますがここまではトイカメラのレベルです。
 そして肝心のレンズですが、実はこのカメラに使われているルードビッヒ製の「Meritar」という45mm/f2.8の3枚レンズに興味がありました。戦後プラクティフレックス用の標準レンズとしてツァイスのテッサー50/3.5やクセナー50/2.8と優劣を競ったメリター50/2.9の系譜を引きずるレンズです。
 デザインや作り込み、メカに関してはまったく趣の欠片もなくトホホの連続でしたがカメラは写 ってなんぼのモノ、要は期待通りにしっかりした写真が撮れれば今までのことは目を瞑ちゃうんですが・・・。

 さぁ、それでは撮影に出かけましょう。まずはカメラがちゃんと機能しているかどうか家を出たところで数枚撮りましょう。 最近は私もしっかり学習してしまって初めて使うカメラはフィルムをムダにするつもりで必ず自宅前で2、3カットレリーズしてから出かけます。折角目的地について、さぁこれから撮影というときにいきなりのトラブルなんて、皆さん経験ありませんか?わたくし、コレしょっちゅうやるんです、予備カメラを持っていればまだしも、1台で勝負の場合は泣くに泣けません。
 まずは朝方降った雨に濡れた車のボンネットをワンカット。ウッヒヤァ〜っ、このシャッターは巧くないですねぇ、ストロークが大きいうえに途中からエバーセットに付き物のテンションが重く変化してバネを限界まで引き絞ったところでシャッターが切れます。
 おまけにカメラが軽いので押し込んだショックを吸収できず、安易にレリーズすると手ブレ必至です。カメラは無神経極まりない作りですが、撮影は相当神経を集中させないと失敗の連続になりそうです。
 東独のカメラは往々にして最短撮影距離が詰められるものが多く、ペンタコンの50ミリなどマクロレンズでもないのに30センチくらいまで寄れますね、このカメラも焦点距離が45ミリですが測ってみると最短で40センチまでピントが合います。国産でこのようなカメラの場合、大抵1メートルほどです。折角寄れるカメラですので、ガンガン寄って撮ってみましょう。
 ということで、ザァ〜ッと撮ってきたのが今回の作例です。
 例によって近接、中距離、無限遠を撮り分けるつもりでしたが寄れるレンズなので、ついつい寄ってばかりになってしまいました。ゴメンナサイ!
 Meritar、古い設計のレンズ特有の茫洋とした雰囲気を演出してくれました。

 今回の作例:
 モノクロは、KONICA PAN400(このフィルム、トーンの出方がデリケートで難しくて手に負えません)をD76で標準処理。
 カラーは、Agfa vista 100(このフィルム、暖色系の発色にクラクラです。カラーネガの中では現在最高ランクby自分比)を純正現像。 共にNikon coolscan IVで取り込んだ画像です。

2003.6.4

Beiretteの作例です

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