Agfa Billy I

乳首が役に立つとき

 この世の中、役に立つモノと立たないモノがゴチャゴチャに混在して成り立っているものではありますが、わたくし、この歳になってもいまだにその存在理由がよく分からない物に「乳首」というものがあります。
 いやいや、乳首といってもご婦人が持ち合わせているアレじゃありませんよ。アレはもう多方面に、また多岐にわたって立派にご活躍になられておりますし、その存在に対して何一つ疑問を差し挟む余地はないのであります。
 これはもう、世界中何処へ行ったって万人が認めることではありますが、わたしが悩んでいる方は野郎の胸の両側に着いている乳首であります。
 これ、なんのためにあるんでしょう・・・・医学的な考証は別として、生き物のカラダを構成しているパーツで不必要な物は進化の過程で消えて行っちゃったはずで、それがいまだに消えないところを見ると、きっとなにかの役に立っているはずなのでしょうが、わたしの記憶というか今までの公的及び私的生活の中で、自分の乳首を使った、あるいは使われて役に立ったということが一度としてないのであります。さらにまた、乳(ちち)なんて一滴として出ないのに「ちち親」という呼び名も実に変!
 まぁしかし、これはオトコの立場から発した疑問なので、女性の方から見れば明確な答えが得られるかも知れません。読者の方で、「オレ(またはアタシ、男女不問))、あんときほど乳首に感謝したときはないゾ(ワ)!」というご経験をお持ちでしたら、daddyオヤジが不眠症に陥るほど悩んでいる問題でありますので、どうぞ、お手紙など頂きたいのでありますが、よろしくお願いいたしますネ。

 さて、写真機の世界では近年富みに「役に立たない」であろう機能をわんさと押しつけて他機との差別化だ、なんていって禄でもないカメラが街中に溢れていますネェ。
 そんなことで、脳ミソ使わずに絵の出来上がりの方でハッキリと違いが判るヤツで汗を流してくれないものでしょうか。写真雑誌で年柄やっている比較記事とかいうやつ、わたしなど、眼を皿のようにして凝視するのですが、明確な差なんて判断できた試しがありません、どれもみ〜んな同じ絵に見えてしまいます。

 写真機の機能、それも撮る立場で言うと、ワタシの場合「1/100秒」というシャッター速度、これはまさに金科玉条のごとくで、これほど「役に立つ」機能は他にないのであります。最近のカメラで言うと1/125秒ということになるのでしょうか、もう、コレばっかりですね。
 わたしの写真の90パーセント以上が1/100秒で撮っているといっても過言ではございません。で、光の加減でもうこの速度じゃ無理ヨとならない限り、このポジジョンを死守!
 理由は様々有るのですが、皆さんと同様に脳ミソ露出計がこの速度でセットされちゃっているんです。あとはフィルム感度の問題が一番大きいですかネ。わたしはどちらかというと写真を「線」ではなく「面」で見る方が好きなので、高感度フィルムはほとんど使いません。さらに、ムカシカメラには高感度フィルムは相性もよくありませんしね。

 てな訳で、何がなんでも「1/100秒・命」のわたくしでありますが、今回ご登場のビリー君、な、な、なんと速度リングに「1/100秒」がない!
 それも、1/25秒があって、1/50秒があって、1/200秒があるのに1/100秒がない!
 どうして?どうして?1/100秒はどこへ消えちゃったの???

 「オイ、オイ、アグファさんよ、キミんとかぁ〜一体なに考えてカメラ作ってンのよ、1/50秒の次がなんで1/200秒へ行っちゃうワケ?1/100秒はどうしたのヨォ〜、ったくぅ〜・・・」と、ぼやいてみたのですが、しかし、チャランポランがモットーのイタリアカメラならともかく、アグファ・ビリーといえば日本でこそあまり大きなうねりが起きなかったのですが、戦前から欧米ではたいへん評判のよかったドイツカメラです。
 アグファブランドでは1925年辺りから50年代前半の頃まで四半世紀に渡りブローニーフルサイズ(6×9判)カメラの代名詞といってもいいカメラで、様々な形の「ビリー」が誕生したのですが、今回のカメラはもっとも後期に作られた1952年製の正式名「Agfa Billy I」というカメラです。
 なにかにつけ理詰めなモノ造りをする彼らが、ただワケもなくシャッター速度を1段飛ばしてこさえるとは考えられません。これにはきっとそれなりの理由があるのではないかしら?

 そこでつらつら考えたのですが、この写真機では1/100秒を取っ払うことで強制的に1/50秒を使わせるようにし向けたのではないかということです。1/100秒でf8の(わたしのオールマイティポジション、極端な場合でない限り何かは写ってくれます)場面でも、1段落とせばf11まで絞れます。このカメラは純粋な目測機ですから、距離を多少見誤っても視写界深度が深く取って有れば許容が拡がります。それを狙ってのことではなかったのかと推測したりしてみましたが、いかがでしょうか?

 さて、今回、ご紹介している「アグファ・ビリー」は、このPuppy' Islandを遠くオランダでご覧いただいている読者の方からのお預かりもので、「距離合わせをして撮っているにも関わらず、すべて遠景にピントが来てしまいます。当方ではなぜそのようになってしまうのか原因が分かりません。もし、よろしかったらこのカメラを診ていただけないでしょうか?」という内容のメールを頂き、わたしも現物を見ないうちにお引き受けすることには不安があったのですが、トリプレットの至ってシンプルな写真機ですし、アグファはカメラもフィルムも大のファン。それにビリーは一度触りたいと思っていたカメラなので、お引き受けすることにしました。

 そして待つこと1週間、遠路遙々届いた包み(タイトル写真)を開けると、このカメラの他、2枚の写真が貼付されていて、撮影状況の説明が裏に書き込まれています。うん、なるほど、激烈な後ピン(?)になっていますね。(下に掲載してあります)
 これは単純に距離リングと前玉のズレだなと判断し、フィルム室に磨りガラスを当てて前玉のセット位置を確認します。しかし、7ミリほどのストロークすべてを使い果たしても一向に近接でピンが来ません。
「???、あれまっ、どういうこっちゃ???」
 レンズをぎりぎり先ッぽに突き出した状態でも、フォーカスしている位置はフィルム面から10ミリも後になっているではありませんか!
 これは前玉がちゃんと移動していない証拠で、前群すべてが移動しているときにこうなります。早速、レンズを分解してみると案の定、前玉と中玉のスリーブ同士が完全に結合しています。
 通常、前玉が固着している場合は、距離合わせリングも頑として動きませんから、故障の原因も即断できるのですが、このカメラの場合、運良く(?)中玉のネジが弛んでスムースに距離リングを回すことが出来ちゃったためにオーナーもわたしもダマされちゃったんですね。

 今回のように前玉ネジの固着というのは往々にして経験することですが、案外厄介ですよね。
 最初から力に任せてガンガン攻めちゃうと、スリーブが変形したり最悪の場合、レンズを割ったりしちゃいますから、まずは優しく第1段はソフトな一昼夜ベンジン浸け作戦・・・う〜ぅん、ダメです、墜ちません、まぁ、これは想定内なので・・・。(ホリエモン あの財力が 羨ましい・・・俳句ってる場合じゃないかっ)
 第2段攻撃は少し荒手の火あぶり作戦、火あぶりといっても直火に突っ込むわけではありませんよ、ドライヤーで丁寧に時間をかけて接着剤と化しているグリスを溶解せしめます。しかし、これでもまだ頑張っています、墜ちません、頑固ですね、コイツ!グリスも多少の油分が残存しているうちは、この辺で墜ちるのですが、完全に油分が飛んでしまうともうダメですね。
 仕方なく第3波、今度は使いたくないCRCをベンジンで割ったものを吹きかけます。CRCは使った後が厄介なのであまり用いたくないのですが、やむを得ません。小一時間ほど放置して、力任せに回してみるとほんの少し動いたような気がする!うっ、コレ効いたかな、さらに吹きかけてしばし放置。CRCを使う場合はこの「しばし放置」が大切です。気長にやりましょう。

 再度、捻ると緩み始めました。おぉ〜、やっと外れたぁ〜・・・外れたネジ山を観察すると、完全に乾燥して緑色に変色したグリスの粉粉がピッチ目にビッシリ詰まってしまっています。これらを丁寧に細めのワイヤーブラシでこそぎ落として洗浄、今度はシリコングリスを薄めに着けて組み直します。うん、いい感じでしっくりと回ります。そして、再び摺りガラスをあてて慎重に距離を調整してオシマイです。

 よく終戦直後の国産カメラで同様のトラブルに出くわし、ミドリ色したコナコナグリスに「モノがない時代だったからね、品質も最低だったンだね」なんて嘆いていましたが、ドイツでも事情は同様だったのか、まさかミドリのコナコナグリスと遭遇するとは思いもよらず、意外な経験をさせていただきました。
 この3枚「アグナーレンズ」、素晴らしく良い玉でしたよ、オーナーの「理恵さま」の作品と合わせてご覧ください。   

2005.4.13


Agfa Billy Iでの作例です

まずは、理恵さまから届いた写真です

その1
理恵さまのコメント:「マツカサにピントを合わせたつもり(2m)なのに、
バックの木が鮮明です。マツボックリの長さは15〜20cmありました」
ゲッ、20cmのマツボックリ!お化けですね、こりゃ。ピンは確かに外れていますね。

その2
理恵さまのコメント:「Amstel川に架かる橋の上から撮影、前方二つの赤ランプの箇所が
必要に応じて跳ね上がります。左は国賓級のホテル、霧の多いところです。バルブ使用」
何と雰囲気のある作品でしょう、霧に包まれているのに不思議な透明感がありますね。
この距離だと問題ないんですね。

 

さて、ここからは調整後です。
以下の写真は、イルフォードFP4を「パーセプトール」で標準現像処理。
キヤノン Canoscan D2400Uでネガフィルムを直接スキャニングした画像です。

1. 4メートルにセット、うん、いいみたい
もう少し、右に振ってワンコもお尻まで入れるべきでした。

2. なんて麗しいトーンなんでしょう

3. 最短1mにセット

4. 同様に最短で
3枚玉なのにボケにクセがなくステキ!

5. 調子に乗って前に出過ぎました
ここだと70センチくらいまで寄ってしまったようです。

6. 開放近くまで開けると・・・ってな具合。

今回も長々とお付き合いいただきありがとうございました。
では、また

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