Vest Pocket Kodak Series III

ベス単とは一味も二味も・・・

 この「写真機の話をしよう」をご覧いただいているアナタは当然のこと、古い写真達を実際に愛し、そして使って楽しんでいる方だと思います。
 アナタの場合は、お使いの写真機達を何処で手に入れましたか。中古写真機屋さんやwebを利用してのオークション、最近ではリサイクルショップなどでも、中古写真機が置いてありますね。ときには、アンティークショップなどでも見掛けることも出来ますが、小洒落た街の西洋骨董などを扱っているお店では、我々が目指す写真機など置いてあっても、相場を無視したトンでもない骨董価格で出ていますから、こうゆうようなお店はパス。街の外れにポツンとあるような少し崩れた印象のある骨董屋とも古道具屋ともつかないような、曖昧な感じのお店、こういった所に案外、お宝が眠っていたりしています。

 私達が中古写真機を買うとき、そりゃぁ安いことに越したことはないのですが、そもそも古写真機を買うという行為は、単に使い古された道具を買うという以外に、その写真機が作られた時代やそれを使った人々、また、このお店に来るまでの時間や事情などといったことを含めて買うことになるわけです。
 このことは一つの浪漫ですよね。革ケースの内側にペンで書かれた持ち主の名前や巻き上げノブのメッキの磨り減り、トップカバーの傷や凹みに思いを馳せたり、中には、撮影途中のまま、フィルムが何十年という歳月を経て、入っているなんていうことも時折ありますね。
 3、40年前のものだと、自分の親や自分自身の歴史と重ね合わせて、その時代に想像が飛べますが、今回ご覧に入れる写真機は、その想像すら出来ないほど、遙か昔に誕生した写真機です。
その名を「VEST POCKET KODAK SERIES III」と言います。1926年に製造されたものですので、かれこれ80年近い年月を経てきた写真機なんです。ですから、これを設計した人、部品を刻んだ人、それらを組んだ人はおそらくもう、この世には居ないでしょうね。

 ヴェストポケットコダックというと、すぐに「ベス単(1912年)」と言う写真機が思い浮かぶのですが、この写真機はその延長線上にあるものの、仕組みやレンズ構成などがまったく違った写真機なのです。
 これ、じつは中古写真機屋さんや骨董屋さんから買ってきたモノではなく、JFCのお友達コヤノ氏(筑波)とお会いした際、「蛇腹のついてるやつ好きでしょ、使ってみるコレ」と言って貸してくださったものなのです。一目見たときに、そのあまりの小ささと精巧さにビックリするやら感動するやら・・・うん、こりゃぁ素晴らしい!
 で、なにが素晴らしいかというとですネェ、いわゆるブローニー判を詰めて使う「FOLDING AUTOGRAPHIC BROWNIE」という弁当箱のような大きさの格調高い写真機を、ギュギュウ〜ッと凝縮して手の平サイズにしちゃってあるんです。これだけでも、その凝縮密度に拍手喝采モノなんですが、小さくまとめてしまったことによって起こる、操作性のチマチマとした仕難さがまったく犠牲になっていない、ココが素晴らしいんです。その理由は何かというと、全体の大きさは半分くらいなのに、各レバーやダイヤル、ツマミなどは、オートグラフィックで使っていた大きさのままを維持してあるんですネ。意地悪く見れば部品の共通化とも見えますが、機関部はコンパクトに、操作部だけは現状の大きさでって、こりゃぁ、やっぱり頑張ってますよ、実によく吟味されていますよ。

 それと、ボディの外周を包み込んでいる、黒い革製のプレス模様が実に手の込んだもので、これがまた素晴らしい!
 おそらく羊の皮を使っていると思うのですが、ベースには砂目模様を施し、前扉・両サイド・背面と4分割に仕切って、そこを子持ち罫により区画としてデザインされています。そしてその区画内は樹の肌模様がレリーフされて浮き出しています。
 いやいや、実に凝った意匠ですね、この装飾は。80年を経て、なお鑑賞に堪える美しさを放っているのですから、新品時の美麗さはさぞ、輝きに満ちていたのであろうと容易に想像が出来ます。
 この写真機は、いわゆるヴェストポケットシリーズの最後にして最上の機種(三枚玉を搭載)で、最初に売られたのはもちろんアメリカのコダック社からですが、作ったのはカナダ・トロントにあったCANADIAN KODAK社だったのです。この写真機から溢れ出るどことなくナーゲルの匂いのする格調は、その辺りに原因があるのかも知れません。
 で、これだけ煮詰めに煮詰めたカメラですから、当然その写りは素晴らしいもので、欧米を初め世界中での評判も良かったのでしょう。特に欧州に向けては、カナダ生産だけでは間に合わなくなったのか、5年後の1931年からはUKコダック社でも生産が始められたそうです。

 さて、ヴェストポケットシリーズカメラですから、当然フィルムはヴェスト判を使うことになります。クロアチア・エフケ社のヴェスト判フィルムも手に入りますが、専用カッターを作ってありますので、ブローニーから簡単に切り出しましょう。ということで、今回はすべて「コニパン100」を使用しました。
 この写真機は、いわゆるヴェスト判フルサイズ(42×64ミリ)ですからフレーム比は6×9判や35ミリフルサイズと同様ですので、普段から35ミリカメラを愛用されている方にも違和感無く使えると思います。
 なにはともあれ、操作になれるためにフィルムを詰めないでイメージトレーニングから始めましょう。ファインダーは例によって、レンズボードの横にちょこんと乗った小さい反射式、シャッターはちゃんとチャージしてからレリーズする高級仕様、と何処も彼処も当時の大型写真機と変わるところがありません。
 しかし、待てよ〜・・・レンズボードを展開してよーく見ると、どうもボードが偏って見えます。「これで大丈夫なのかしら???」・・・大丈夫な訳ないですよね、肝心のレンズボードが曲がっていては光軸が正しくフィルムに届くわけがありませんから。一応、念のためピントグラスを当てて覗いてみると、案の定、像が滅茶苦茶です。
うぅ〜ん、こりゃ困った!


 仕方がないので、オーナー・コヤノ氏に許可を戴き、修復を試みました。レンズが付いている機関部をすべて取り外し、ボードの変形を方眼紙上に合わせてフィルム面と平行になるよう修正します。いやいやいや、この材料がすごくガッチリしていて硬いんですよ、国産機などですと容易に曲げられますが、この僅か1ミリほどの鉄板は焼きでも入っているのか、ちょっとやそっとではビクともしません。80年を経ていまなお当時の輝きが失せないこの機械には、国産機など足元にも及ばない純良な材質で固められているんですね。
 あの手この手で何とか騙し騙し曲げを修正しながら、一応、平行を出すことが出来ました。光学的な機器を使っていない、いい加減なナンチャッテ修復ですが、ピントグラスで見る限りは中心はビシッと来ているし、距離目盛りとも符合するようになりました。これで一応、オーケーと言うことにさしてもらいましょう。

 ではでは早速、街へと「行ってきま〜〜す・・・・」      

2004.9.28


VEST POCKET KODAK SERIES IIIでの作例です

以下の写真は、Konipan 100をエヌエヌシー社のND-76で標準現像処理。
キヤノン Canoscan D2400Uでネガフィルムを直接スキャニングした画像です。

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