リコレットII

六畳一間とリコレット

 私のカメラ歴の始まりがこのカメラ。
 昭和34年、東京は大田区蒲田の西の外れに貧乏長屋が軒を並べて建つ一角、6畳一間に父母妹と一家4人で私達は暮らしていた。
 当時小学6年生だった私は3日後に鎌倉への修学旅行を控え、母が揃えてくれたリュックサックに担任の先生からもらったプリントを見ながら早くも荷物の用意をしていた。
 日も暮れた頃、仕事から帰った父が紙包みを取り出し「これ持っていけ」と言って差し出したのが、このカメラである。
 駅前の古道具屋で購入したらしく、茶色の革ケースに入っていたこのリコレットIIは、昭和30年製の中古品だった。
 当時、裕福な家の友達が持っていた「フジペット」が羨ましく、カメラがとても欲しかった私は夢ではないだろうかと思うほど嬉しかった。
 しかし小学生の自分にこんな大人が使う写真機が使えるかどうか非常に不安になった。
 カメラといえば、その友達から手にとって見せてもらった、1,2,3のレバーで撮れるフジペットしか知らず、勿論このカメラには操作順の番号などなく、また中古ゆえ元箱や取説が付いているはずもない。
 その上、全くの機械音痴であった父はさっぱり操作法が解らず、翌日学校の授業が終わるやいなや、近所の商店街にあった写真屋にフィルムの装填を頼みがてら、操作法を必死に教わった記憶がある。
 旅行から帰り、その写真屋に現像を頼み、上がった写真は、好天も味方をしてくれたが結構良く撮れていて、写真屋のおじさんも褒めてくれたが、父が非常に喜んでくれたのを憶えている。
 あの頃、生活に困って母がよく質屋通 いをしていたほどの貧乏暮らしだった父が、中古とはいえ高価なカメラを息子に買ってくれたことを思うと、胸が熱くなる。
 とうの昔に父母とも亡くなったが、今でもこのカメラを大切に使っている。
 ファインダーを覗くたびに、あのときの父が喜んでくれた笑顔が被写体とダブって見えることがある。

 このカメラ、たいしたメンテナンスもしていないのに年に数回使っているせいか、46年経った今もフラッシュの同調を始め全ての機能が完璧に作動する。
 このあたりが機械式カメラの凄いところで、現在のAPSカメラやデジタルカメラが40年後に全機能が作動しているかは、はなはだ疑問である。
 距離計の黄色味帯びた二重像すらいまだ鮮明で見やすい。
 カメラは使うことで長持ちするので、月に一度は空シャッターでけでも切っておくとよい。
 同時にヘリコイドも数回前後に動かし中の空気を入れ換えてあげれば、カビの発生を防ぐこともできる。 それが古いカメラの寿命を延ばしてあげるコツだ。
 このカメラの操作については、シャッター速度の数値が、B,1/10,1/25/,1/50,1/100,1/200秒となっていて、この数値にはいつになっても馴染めない。
 レンズは、後に傑作を多数生みだした富岡光学製の3群3枚のトリプレット、45mm f3.5でモノクロ時代のレンズのせいか、強めのコントラストでアンダー部分は少しつぶれ気味。
 ピントが来ているところの尖鋭度は充分高レベルだが絞りを5.6以上開けると周辺はかなり流れはじめる。
 今となっては実用機と言うより、自分史を楽しむカメラと割り切っている。



Ricolet IIの主な仕様
発売年度 1955年(昭和30年)
レンズ 富岡光学製 45mm f3.5 3群3枚構成
シャッター リケン製 B・1/10 - 1/200
大きさ・重さ 幅140・高さ77・奥行き64mm  550g
発売時の価格 11,000円(ケース付き)
主な特徴 距離計のミラーに極薄いガラス板を用い、ハーフミラーを蒸着加工したそれまでにない方式の距離計を搭載していた。

 

このカメラのデザイン上の美点はテーパーに絞られたファインダー収納部。
Ricolet IIのロゴがいい感じにプレスされている。

裏蓋は底板と一緒にそっくり外れる。
ゆえにフィルム装填は簡単で確実に出来る。内部はシンプルそのもの、従って故障も少ない。
この時代にフレームは既にダイキャストの一体成型品を採用していることに驚く。

縫製のしっかりした革ケース。
46年間の使用で相当くたびれたが、そのおかげで中身はまだまだ綺麗。

 

Ricolet IIって、こんな写り方をします。

先鋭感や立体感とも、いい感じなのだが、周辺光量 はどうしても落ちる。これは、f8まで絞っている。

前夜からの雪が朝方上がったので、日の出を待って外に出た。
本当は日に照らされてキラキラ光る逆光での雪面 を撮りたかったのだが、 このカメラではそんな思いは叶えてくれない。

このレンズは、カラーで使うと黄色系が強く出る。やはりモノクロ時代のカメラなので、カラーバランスは良くない。
私の場合は、幼き日々の思い出に浸るときに使っているので、画質云々は二の次にしている。

一覧へ戻る