Lord 35IV B

「あぁ〜ぁ、つまんない」のおもひで

 今年の夏は世界的な異常気象の影響に巻き込まれたせいか、日本では連日の酷暑、それが一段落つくと思いきや、今度は幾度となく大型台風の襲来を受け、散々な目に遭ってしまいましたね。規模の大小に拘わらず、被害を被られた方々には心よりお見舞い申し上げます。
 こんなことを言っては不謹慎の誹りを免れないのですが、子供達にとっては台風の接近や上陸って、一種の非常事態ですから、大いなる冒険心を擽られちゃってちょっとワクワクしたりしてしまいますネ。

 わたしが子供だった頃(昭和30年代)のことを少し思い出してみましょうか。
 当時は、現在のような気象予報システムなどまったく完備していませんでしたし、最新の情報を受け取る手段は新聞とラジオ放送だけでしたから、現況がはっきり市民に伝わっていませんでした。
 朝起きて、激しい風雨に耐えて登校すると、先生方が校門前で「今日はお休みにしますから、気をつけて帰って、家で自習してくださ〜い」と、ハンドスピーカー片手に声をからしています。当時は、それぞれの家庭に電話など引けていませんから、現在のように学級連絡網などという手段は無く、とりあえずは、みな登校しちゃったものです。
 ここで子供達は折角学校までやってきたのにと思いつつも、ほぼ全員がニタッとしまたよね、中には飛び上がって喜んじゃうオバカなヤツもいたりして・・・。そうゆうのはたいがい、勉強もろくすっぽ出来ない青っぱなを垂らした悪童でしたね。
 うん?オマエはどうだったかって?ハイ、もちろんわたし飛び上がっちゃったクチです。

 そんでもって、帰りの道々、友達連と今日一日の楽しい行動計画を立て合うわけですヨ。たった5分前に先生から言われているはずの「家で自習」なんてスッカラカンと忘れちゃっています。
傘が上手く差せずに、ビショビショになりようやく家まで辿り着くと、よく父親がステテコ1枚になって雨戸のない窓に板切れを×印のようにして打ち付けていましたよ。あれ、何ほどの意味があったんでしょうかね、たいがいの家には軒下にそれ用の板切れが仕舞われていましたが、その効果たるやどれほどのものなのか、まぁ、気休め程度の効果は期待できたと思いますがネ。
 そうして、学校が休みになったり、親達の日常でない行動を見るにつけ、当然のこと子供達も尻が落ち着かないというか、わずかに興奮状態になって行くのでありました。
 台風を迎え撃つ準備に忙しい、親を尻目にカバンを投げ捨て、先ほど悪童と約束した場所に出掛けようとすると「アンタ、こんな時に何処行く気なの(怒)」と母に見つかり、引きずり戻されます。
「ったくバカなこと考えてるんじゃありませんよ、これから何が来るのか判ってんのかいっ!(怒×2)」
 こうして、妹と一家四人、六畳一間のバラックでラジオを取り囲むように座りながら、ジ〜ッと台風の通り過ぎるのを耐えるのでありました。
「あぁ〜ぁ、つまんない・・・・・」

 というような日々を過ごしていた昭和の中頃に活躍していたカメラが今ここにあります。
 岡谷光機が作っていた「Lord」というカメラです。今、わたしが手にしているのは「Lord 35 IV B」と言う昭和32年に製作されたカメラで、これがすごくいいのであります。
 わたしが拾ってきたこの「35 IV B」は、当初、あちこちが腐食して真っ白、貼り革はベロベロ、もちろん各リングは言うに及ばず巻き上げレバーさえ固着していた、とうの昔に命途絶えたカメラでした。
 で、なんでそんなゴミのようなカメラを例え僅かな金額とは言え、お金を費やして買ったかというとですね、手に持ったときの「重み」ね、このカメラ、片手に載せても指が余るほど小さい(横幅は11センチほど)のですが、その容積にまったく比例しないドッチリとした手応えにやられちゃったんです。
 いやいや、カメラは単に重けりゃいいというわけではないのですが、バランスが絶妙の重さというのがあるでしょ。厳密に言うと、手で包み込んだときのバランスとでも言うのでしょうか、心地よい均衡の重さが感じられるというものがありますよね。
とにかく持ってみると実に手に馴染むんですね。なので、たとえ修理出来ずとも、ココロの平安を得たいときの手慰め用にでもなってくれればいいなと思ったわけです。

 というわけで、あまりにも状態が悪かったので、バラせる限りにバラして洗浄と磨き込みを施しました。するとどうでしょう、念ずれば通ずとでも言うのでしょうか、なんと固まっていた所が動き出し、機能を回復しちゃったんですね。それでもパリパリになってしまっていた張り革は再生不能ですので、替わりのモノを張り直しました。
 これは0.5ミリほどの厚さで細かいエンボス加工がされているゴムシートで、裏にはご丁寧に粘着材まで付いているものなのですが、カメラのボディに使うと指が滑らずに大変具合がいいのです。ホームセンターなどのゴムシートコーナーに置いてありますので、皆様にもぜひ、お薦めの補修品であります。
 あとは、巻き上げレバーの先っぽが強烈な腐食で欠けてしまっているのですが、これは別の個体から持ってくるか、工作機械を用いて部材を削り出すしか方法がないので、何とか現状の物で我慢するしかありません。使い勝手に少し不便をするのですが、巻き上げられない訳ではないし、これで使うことと致しましょう。

 さて、このカメラ、実際に使ってみるとやはり実にいいんですね。
 写真からもお判りのように、シャッターボタンの位置が距離計の出っ張り近くにあって、凄く押しにくそうでしょ。ところが、これが実に良く出来ています。それはですね、このカメラは巻き上げを2回やって完了するのですが、1回目でフィルムが半分送られます。そして、もう一度巻き上げると残り半分が送られると同時に、シャッターボタンがポチンと5ミリほど飛び出して来るんです。
 うん、これは巧い仕組みを考えた物です。なので、この位置でも距離計の出っ張りに煩わされることなくレリーズできます。さらに、ポチンと飛び出したシャッターボタンの下縁には赤い鉢巻きがマークされていて、「巻き上げは終わってますヨォ〜、シャッターもチャージ出来てますよぉ〜」と撮影準備の完了を知らせてくれるんですね。これまた、イカしたアイデアではございませんか。

 それとね、わたしが一番気に入っているのが、トップカバー左サイドに抜群のセンスで取り付けられている「Lord」というエンブレム。これ、他のカメラのようにトップカバーの内側からプレスで出っ張らしたものではなく、丁寧なクロームメッキを掛けた別部品を貼り付けてあるのです。う〜ん、小憎らしい意匠ではありませんか、すばらしい細工ですよ、これは。
 Lordとは、支配者とか君主、大きな意味では神をも意味する壮大な名称なのですが、このカメラ、結局、業界の支配者や君主とはなりえず、このカメラが出て2年後の1959年、「Lord Martian」と言うカメラを最後にカメラ製造の舞台から降りてしまいます。何とも残念なことでしたが、手抜きを一切拒否してコスト無視で良質なカメラを指向したことが短命を招いてしまったのかもしれません。

 あぁ〜・・・その他、巻き上げ機構のアイデアとかフィルムカッターの工夫とか、お話ししたいことがまだまだたくさんあるのですが、文が長くなり過ぎちゃいましたので、今回はこの辺で・・・また機会を見て、やることといたしましょう。

2004.11.9

ビュッカーさんの報告


ロード35IVBでの作例です

以下の写真は、ネオパンSSをミクロファインで標準現像をしたものです。
ニコンCOOLSCAN IVでネガフィルムを直接スキャニングした画像です。

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7 絞り開放でもココまでいけます

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