LEC junior

パリの肝っ玉 かあさん

 私達が生きてきた20世紀という時代は人類が誕生して以来、最も異常な変化を遂げた世紀だったのではないでしょうか。
 人間がそれまで営々として積み上げてきた生きるための技術や経験、知恵を一切捨て去って、ただひたすら工業化という一見全能に思える楽をするための技術に溺れきってしまった時を過ごしてきましたね。
 その疾走はこの21世紀に入ってなお勢いを増しているようです。このことの是非はあと数世紀を待たなければ結果が出ないとしても、それは幸福なことだったのでしょうか、或いは不幸なことだったのでしょうか、皆さんはどう思われますか。
 本来、人間が持って生まれた能力や技術を使おうとせず機械に任せてしまう、その機械が人間の能力を遙かに超えて強力にまた高速に物事をこなす。一度でもこの優越な世界に足を踏み入れたらもう後戻りが出来ないことは私もよ〜く解ります。いまこうして使っているPCにしても5年前のことを思い出してみて下さい。実に動きが遅かったですね。
 更に10年前はどうだったでしょう、今のことを思えばとてもコンピューターと呼べる代物ではなかったでしょう。たかだか10年前のことですよ。
 このようにして人間がすべき、あるいは出来る仕事を機械任せにしてしまうことの功罪として、我々が本来持っている生き物としての能力が失われていきますね。
 例えば視力、私達の生活ではせいぜい100メートルくらいを見渡せれば充分生活に不便を感じません。
 そうなるとちゃんと遠くを見る能力が退化してしまうらしいのです。あなたの視力はどれくらい遠くのものを認識できますか?私は100メートルはおろか50メートル先のものも自信が持てません。
 現在でもモンゴルやアフリカの広大な草原に生活している人々は500メートル先の人間を識別 しちゃうそうです。
 こうなっては、せめて好きな写真機に関する人間的能力を退化させてはいけないと、そのような動機もあって古いマニュアルカメラを相手に七転八倒する日々なのですが、これとてある程度露出操作に慣れてくると、ちゃんとした写真が撮れるようになりますね。
 私が最近好んで使うようになったシャッター押すだけカメラ(と言ってもAFやAEなど電気に頼らない固定焦点・固定露出のもの)も光に対する反応力を維持しておきたいという隠れた欲求があるからなのかも知れません。
 またそうしたカメラで撮った写真 については一切の言い訳がきかない、この辺りの潔さというかスリルが何とも言えない快感なんです。
 当然のこと、失敗も続出するわけですが、これがアマチュアの権利、大いに失敗を楽しもうではありませんか。
 これは、どう筆を尽くしても、やった人でないと理解してもらえない感覚なのが残念であります。

 今回持ち出してきたのもそんな写真機の一つ、フランスのベスト判カメラ「LECジュニア」です。
 この写真でお判りのように全身ベークライト製で小型を信条とするベスト判としてはかなり大柄(フジカ35EEとほぼ同等)なカメラです。
 パリの小娘と言うよりは洗濯屋で働く肝っ玉 かあさんといったような風貌ですね。
 この「LECジュニア」に関しては手持ちの資料やwebの情報を探してみたのですが、全く得ることが出来ません、意匠や材質・仕様などから推定すると1950年前後のものではないかと思われますが自信がありません。もしこのページをご覧頂いた方で詳細をご存じでしたら是非教えていただきたいのですが。


 具体的な諸元をもう少し述べましょうね。
 一番肝心なレンズは「DUXOR」という銘が入った単玉 。単々マニアとしては嬉しい限りです。
 シャッターはタイムとインスタントの1速のみ。タイムとはなっていますがボタンを放すと閉じてしまいますので、バルブと同じです。
 シャッター速度は概ね1/50秒くらいでしょうか。
 またこのシャッターボタンが実にフランスしているんですね、鏡胴の左上45度の位置にあります。しかしね、使ってみるとこれが実に具合がいい!
 カメラを普通にグリップすると自然に人差し指がこのボタンの上に来る。そして押す方向も45度ですから全く無理がないのです。ミノルタハイマチック(初期型)やリコーハイカラー35(やはり初期型)の真下に降ろすシャッターは無理があることがよく分かります。
 絞りは大小の穴が開けてあるプレートが左右入れ替わるようになっています。大穴の方がAVERAGE LIGHTと記されていてf8くらい、小穴の方はVERY BRIGHTと記されていてf16くらいかな、薄曇りか快晴の時に使えよということでしょうね。
 分かりました、じゃ〜そういたしましょ。

 バックパネルを外すとご覧のようにフィルムガイドレールが大きく湾曲しています。単玉カメラですから収差をうち消すための手だてです。
 今回、写真を撮るために施したことといえば、ブリキで組まれた簡素なギロチンシャッター周りの錆落としと注油、写真からもお判りのようにベークライトでペカペカと気になる光沢があるフィルム室にシッカロールをたっぷり混ぜ込んだ黒ラッカーで内面反射の対策をした程度です。
 以上で各機能の説明は終わっちゃいました。実に簡単でしょ、でもいいんです、いいんです、写真を撮るという事に関してはこれで充分。光を集めるレンズが1枚あり、光を遮断する装置や光量 を加減するプレートもちゃんと付いている。あとは感材を装填して良い光を見つける、それだけのことですね。



 思い起こしてみるとフランス製のカメラって、初めて触ります。
 もともと写真機はフランスで発明されたもの、フランス製のカメラがもっと多く世界に知れ渡っても良さそうなものですが、どういう訳かドイツにその後の発展を任せてしまいましたね。
さてこのLECジュニア、どんな風に光を取り込んでくれるのでしょう、今回は初っぱなのテストと言うことで取り急ぎ2本だけ撮った物を掲載しました。このカメラにあった光に慣れましたら暫時写真を差し替えていきたいと思います、ではご覧下さい。

2003.12.3


LEC juniorの作例です

以下の写真は、1〜4はAgfa APXを、5〜7はefkeを使用。エヌエヌシー社のND-76で標準現像処理。
キヤノン Canoscan D2400Uでネガフィルムを直接スキャニングした画像です。

1

2. 中距離の順光では問題ナシです。単玉で気になる歪曲も極々端っこで少々。

3. どれくら寄れるのかしら?・・・クライマー君までは60センチほど、これはさすがに無理ですね。
後ろのバスケット辺りはピンが来ていますから、1メートルくらいからいけそうです。

4. 絞りを大穴にすると・・・見事に解像力が落ちますね。歪曲も派手に出るし
周辺も怪しくなってきます。こりゃぁ困ったどうしたらイカンベェ・・・。

5. 小穴向きの光を選んで再びチャレンジ

6. 主題の子供達より自転車がいい感じ、特に手前のヌメッとしたサドル

7. ここで気付いたのですが、この距離だと上下のパララックスが非常に大きいです。もっともファインダーの
接眼レンズは3ミリほどの小ささ、瞳をくっつけるようにして覗くのですが見難いことこの上ありません。



JFC会友の「かめらっこ」様から、このLEC juniorについてのコメントを頂きました。
私が思っていたよりズゥ〜ッと古いカメラだったんですね、かめらっこさま、ありがとうございました。

 daddyさま、こんばんは。
 やっぱりベークライトのカメラは、いいですねぇ〜。
 で、LEC junior の製造メーカーがわかりました。昭和12年〜13年生まれのM.I.O.M.製でした。
 この時代のベークライト製って、きっとモダンだったのでしょうね。この娘は、WW2の独逸の侵略戦争にも、耐えて生き残ったのですね。大事にしてあげてくださいませ。
 余談ですが、フォタックスと同じ会社のカメラだったのですね。
 フォタックスは、チェコ、ドルオプタ製の50年代のカメラとも瓜2つで、このあたり、なにか訳がありそうな気がします。(確証はないのですが、チェコで作らせていたのかも・・・)
 でもLECジュニアのほうは、チェコと関係ないかもしれませんが。

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