National C-D700AF

さすがの松下、電気の力でフルモーション

 私の78歳になる義母は写真が好きで今でも撮り続けているアマチュア写真家でもあります。
 といっても作品撮りをしているわけではなく、主な写真は旅先でのスナップや曾孫の写真ですから写真家というには烏滸がましいところもあります。
 しかし、義母の撮った写真を長い間見てきましたが、ほとんど露出とピントに関しては失敗といえるカットがないんですね。それどころか発色やコントラスト、尖鋭度は文句の付けようがないほど見事な写り具合なのです。
 現在では当然AFフルオートズームのお世話にはなっていますが、それにしてもいい写りだなぁと感心して見せてもらっています。
 当然、私としては、カメラに興味があるのでどんなカメラをつかっているのかが気になるところであります。もう10年以上前のことですが、旅先の土産話を聞きつつ写真があまりに上手だったので、カメラを見せてもらったことがありました。
 その時、出してきたカメラが、今回の題材「ナショナルC-D700AF」だったんですね。
 最初、手に取ったときの感想は正直に言って「ナショナルのカメラなんてあるの?ストロボは知ってたけどナショナルカメラなんて聞いたことも見たこともないなぁ???」と不勉強な私は少しバカにしたような、舐めたような感想を持ちましたね。
 当時国産ではニコン・キヤノン・ミノルタが一流、それ以外のカメラ専業メーカーは二流、まして家電屋さんの造ったカメラなど三流にも入らないと、今思えばかなりの偏見がありましたから、カメラを手にとってNationalのロゴを見たときには「シッッ、シッッ、もういい、あっちいけ!」となってしまったわけですが、撮った写真は見事なものなので何か変なギャップというか奇妙な印象を受けたことを憶えています。
 東京・中野の小さな住宅が密集した町内に住む年老いた義母にしてみれば、戦後の焼け野原から夫婦で一生懸命に働き、バラック家屋を建て真空管ラジオから始まる家電品を揃える中、近所のナショナルショップから届けられるピカピカの最新家電品は一流メーカーである「National」のロゴが付いていることが最高のブランドであり、安心のシンボルでもあったわけです。
 従って、例えカメラであろうがテレビであろうが「電気を使って動くものはナショナルが一番、ニコンなんて知らないねぇ・・・」ということになってしまうわけです。

 昭和30年代・40年代は町の電気屋さんが文化の発信基地の役割を果たしていたんですね。
 長い時間をかけて染みついたこの風潮は未だに義母の脳にしっかり定着しています。当然、このカメラも先述の電気屋さんから購入したものだそうです。
 現在使っているものはブランド名こそ「Panasonic」に変わりましたが相変わらず松下製をご愛用、この保守性には思わず笑ってしまいますよ。しかし、このような顧客の期待を裏切らない松下のモノ作りの凄さを今回のテーマで垣間見ることが出来ました。

 あるカメラ屋さんのジャンク箱でこのカメラを見かけた時、私は何の注意を払うでもなく見過ごして店を出てきてしまいました。
 そして、10mほど歩いたところであの時の義母のカメラと同じであったことを思い出し、あの写りを自分でも確かめたくて再度戻って買ってしまいました。
 一見、ツルンとした普遍的なバリアタイプのスタイルには、所有欲を刺激するような魅力は全く感じられません。皆さんがもしジャンク箱で眠っているこのカメラを見かけても、先ず興味はそそられないでしょうね。
 しかし、手に取って、よーく見るとこのカメラの作り込みの凄さに驚かされます。
 ボディ全体はプラスティック製ですが、その材質と極小のシボが施された表面処理はかなりの高級感があります。
 私は専門外なので詳しくは知りませんが、プラスティックの樹脂素材にピンからキリまであるとすれば(材料のことですから高価なモノから安いモノまであるのが常識ですね)このカメラに使われている素材は絶対ピンの方です。
 他社のプラカメと違い手にしたときに指先から伝わる素材感が全然違います。何かこう分子がみっちり詰まっているというか・・・うぅ〜ん、この辺りは感覚的なことなので表現が難しいのですが。
 また各パネルの接合面が見事にピターッと合っていて一体構造のように見えます。この辺りの成形技術は今見ても超一級品ですね。


 撮影時はレンズバリアを右側に開いていくと開ききる寸前に左側AF測距窓を覆っている「35AF」と記された小さなパネルが反対側に走ってセットアップされますが、手動とは云えこの細工は見事なカラクリです。
 カメラの仕組みからすれば、この仕掛けは良い写真を撮ることこととは全く関係がないものなのですが、このような設計者の遊びは嫌いではありません。
 レンズトップ面には保護を目的にしたものか反射対策かは不明ですが、極薄ガラスが1枚入っています、これもプラカメ特有の安っぽさを排除する手助けをしていますね。
 そして何よりビックリしたのがフラッシュのセット方法です。
 通常はボディ内に格納されて見えないのですが、いざ出動となりトップ面にある小さなスイッチをスライドさせると、何とモータライズされた発光部がウィーーンと唸りながら迫り上がってくるのです。これにはたまげました。
 さすがエレクトロニクスの巨人、松下のカメラです。さらに収納する時は発光部の頭をちょっと触れると今度は目にも止まらぬ早さでスパンッと引っ込みます。どうなっているんでしょう、この仕組みは・・・私にはサッパリ解りません。
 そしてレリーズすると全ての機能が電気で一斉に動き出し、まぁ賑やかな音を立てます。シュウーン・ピタッ・カシャ・ジュワーンワーンといった具合です。シュウーン(AFセンサー作動中)・ピタッ(フォーカス決定レンズ停止)・カシャ(シャッター作動)・ジュワーンワーン(フィルム巻き上げ)とまぁ、こんな感じでしょうか。
 ただ、初期のオートボーイのような猫も逃げ出すほどの大きな音ではありません。程良いエレクトリカルな音で「あぁ、電気カメラを使っているなぁ」という程度のものです。
 手動で開けるレンズバリア、f 2.8・35mmの単一焦点準広角レンズ、アクティブ方式のAFなど、このスペックと私の記憶で想像すると80年代中盤に誕生したものではないかと思うのですが、このカメラに関する資料が手に入らず詳細はよく分かりません。
 ただ、ライカのコンパクトを一手に引き受ける松下の子会社「ウエスト電気」が造ったものなので、相当凝りに凝ったカメラであることには違いありません。

 カラー・モノクロ両方で試しましたが、やはりカラーの方がバランスが良いみたいです。
 AFに関しては全コマで外れが無く、これには驚きましたね。オートロンやヤシカTと同時代のカメラであればAF外れはある程度は仕方がないと思っていましたので、これは意外でした。
 また、AFロックも効きますので、「本郷界隈(2)」や「モノクロ(1)」のようなピンを手前に置くような写真もこなしてくれます。
 発色に関してはフィルムによっても違うでしょうが、今回の例ではニュートラル、被写体にかなり忠実です。ただ、「東大構内(2)」のように強い反射があるとフレアーが出てコントラストが低減しますので、レンズの上を手で覆ってやったほうがいいようです。
 全体としては全てがレベル以上、かなりの優等生ですがその分オートロンのような強い個性での表現は望めません。失敗が許されない場面やキッチリ撮って措きたいときは強力な味方になってくれるカメラですね。

 上記中、プラ材料に触れた記事がありますが、JFC会友のjazzy氏よりポリカーボネートという素材ではと、ご指摘を頂きました。以下にアドバイスの内容を原文のまま転載させていただきます。jazzyさん、感謝です有り難うございました。

「さて、まずプラスチックには大きく分けて汎用プラスチック(ポリエチレンやポリプロピレンなど)とエンジニアリング・プラスチック(エンプラと呼ぶ)とがありまして、ポリカは後者即ちエンプラの一種です。
エンプラには他にABSやPBT、PET(ジュースのボトルですね)などがあり、エンプラの中ではポリカは「普通」の材料ですので、残念ながら特別に高級な材料というわけではありません。←夢を壊してごめんなさい。
さらに上には、スーパーエンプラと呼ばれる高額な材料(液晶ポリマーなど)もありますから、本当に「普通」ですね(笑)。
しかし、昔のプラカメの成形がいい感じというのは分かる気がします。なぜか??それは東大阪あたりに林立する金型工場(とうちゃん社長、かあちゃん専務)の職人達の腕が一流だったからです。(松下のおかげではない・断言)
プラスチックは所詮金型が命ですから、金型職人次第で品質が左右されます。この職人技術がコンピューター制御の機械に取って代わっている現代において、果たしてどこまでいいものが作られるのか?疑問です。
・・・と、話がながくなりそうなのでプラスチック講座はここまでとします(笑)。」

 今回の作例は、ネガカラー「コニカJX400」をLPL PRO現像キットで、
モノクロは「T-Max400」をD-76で自家処理したものを、
ニコン「CoolScan IV」で取り込んだ画像です。

2003.1.21

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